花だより

桜見よとて

小唄解説~木村菊太郎著より~

桜見よとて名をつけて まず朝桜夕桜 
よい夜桜は間夫の昼じゃとえ
エエどうなと首尾して逢わしゃんせ 
何時(なんどき)じゃ引けすぎじゃ
誰哉行燈(たそやあんどん)ちらりほらり 金棒引く

三世坂東三津五郎が文政四年(1821)大阪で作詞作曲して舞台に乗せた上方小唄である。
唄の意味は、当時の江戸で少し金のある若旦那が、取巻連をつれて、朝から家を出て上野か飛鳥山の花見に繰り出した挙句が、向島の夕桜から吉原の夜桜まで延びてしまい、さて遊女から
「間夫は引けすぎ、という諺もありんす通り、情人は宵のうちに来ないで、引けすぎにゆっくり逢いに来るもんざます。主さんも今夜はどうぞ首尾して(都合をつけて)、わちきの間夫になっておくんなんし。」
という甘い口前にのせられて、到頭引けすぎまで遊んでしまったという、呑気な時代の花見風俗を唄ったものである。従って、この唄の唄い方は、
「桜見よとて」から「間夫の昼じゃとえ」まで男。
「ええどうなと首尾して逢わしゃんせ」は女。
「何時(なんどき)じゃ」は男。
「引けすぎじゃ」は女(又は遺手婆か男衆)である。
すでに中ノ町一帯辻行燈(誰哉行燈)の灯も消えかかり、人影もまばらに、廓内の夜警の持つ金棒を引く音も早立って来る、というのが「誰哉行燈ちらりほらり金棒引く」である。
この上方小唄はすぐ江戸で端唄、歌沢として唄われた。
江戸小唄は端唄から採ったものであるが、曲も派手に良く出来ているので、幾つも替唄が出来た。

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