花だより

書き送る

小唄解説~木村菊太郎著より~

書き送る 吾が手ながらも羨まし
恋しき人の見ると思えば恥ずかしき
嘘も誠も命毛に 契いしことの判じもの
待つも幾夜の後朝に 人目の関と明烏

江戸時代の江戸端唄。明治期に新作された江戸小唄である。
この小唄は廓の女が絶えて久しく逢わぬ男のもとに、思いの丈を述べた文を書き送る所を唄ったもので、冒頭の文句は幕末の勤皇の志士、対馬藩士青部蔀(しとみ)が国許の母に送った文の終わりに書いた「書き送る吾が手ながらも懐かしき恋しき人の見ると思えば」を採ったものであろう。
「書き送る吾が手ながらも羨まし」の「羨まし」は古語の「羨み」で、思うように書けないで不満であるという意味である。
「命毛」は筆の穂先の最も長い毛のことで、ここでは筆を指す。
「嘘も誠も命毛に契いしことの判じもの」は、妾の心が嘘か誠かは妾が命毛に誓って見とめた起請誓紙を見ていただければ分かる筈でございますのに。という意味であろう。
「後朝(きぬぎぬ)」は「衣衣」で、男女が相会った翌朝それぞれの衣服を着て別れることで、「人目の関」は、他人の見る目が妨げとなって思うようにならないことを関所に例えた言葉。
「待つも幾夜」から終りまでは、毎夜のようにお待ちしておりますのに人目の関に妨げられ今朝も空しく空けてしまいました。という切々たる思慕の情を訴えるところで、「明烏」は夜の明けることと、
夜明けに鳴く烏をかけたものである。
江戸情緒たっぷりの江戸小唄である。

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