初雪
詞・曲 初代清元菊寿太夫
初雪に 降りこめられて向島 二人が仲に置炬燵
酒(ささ)の機嫌の爪弾きは好いた同志の差向かい
嘘が浮世か浮世が実か まことくらべの胸と胸
明治二十年頃、菊寿太夫が六十八、九才の時の作品と想像される。
小唄の舞台である向島は梅若塚で有名な木母寺、その左の水神社、ここいらが向島の中心であった。
水神の森には江戸時代から八百松と植半とがあり、このほか弘福寺前の武蔵野と牛之御前の葛西太郎とが向島の料亭として聞こえていた。
「初雪」は明治二十年頃の小唄完成期に作られたもので、向島情緒を遺憾無く描写している。
しめし合わせて行きつけの料亭で落ち合った所、折から外は初雪、しかも
初雪の大雪となる気配かな(須磨)
で、大雪になって人力車が通わぬようになって、帰れなければもっけの幸と、置炬燵でお猪口のやりとりから、酒の機嫌でその頃流行りの江戸小唄を爪弾きで唄う。
「誠くらべの胸と胸」は二人の心意気である。
歌詞は、すらすらとしてよどみ無いが、作曲は大いに技術をこらしたもので、清元調の色濃い作曲である。